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お互いに、全うしよう

  • 執筆者の写真: 住職
    住職
  • 8月1日
  • 読了時間: 3分
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和尚の雄道です、こんにちは。


私が初めて修行していたお寺は、

毎年100人以上の修行僧が入門を志して全国各地から集まってくる修行場だった。


私が行った時も、140人以上の同期がいて、

140人がそれぞれ入門を許されると、

お寺の様々な部署に、散り散りに配属され、

多種多様な役目を与えられる。


参拝者の案内をする部署

宿泊者の布団を敷いたり、食事の案内をする部署

ご希望者のご供養を行う部署

建物の土木作業を行う部署

料理を作る部署。。。などなど

全体で20以上もの部署があり、

3、4か月に1度配属替えがあった。


お給料がやや少ない事(月給三千円)を除けば、

会社員と同じ様な仕組みを取っているのだが、

同じ部署で一緒に過ごした同期同士は仲良くなる。

(もちろん仲が悪くなる者もいる)


私は一番最初、修行僧の食事を準備する役職に就いた。

大学時代、自炊を経験させてもらっていたもので、料理は多少経験があり、

何より好きであったから、今考えても、本当に充実した日々だった。


その時の同期でAという修行僧がいた。


私は今以上に、大雑把な性格をしていたのだが、

Aはその逆で、何をやるにも丁寧。

一見物腰が柔らかそうなのに、その内面は一本気で、頑固。

しかし同時に繊細で、バカが付く程の真面目人間だった。


部署の仕事を行う際に参照する、引継ぎノート、いわゆるマニュアルがあったのだが、

私は、マニュアルは時と場合によって変更するタイプ。


一方Aは、マニュアルのやり方は絶対変えず、忠実に引き継いでいくタイプだった。、

その為、始めはしばしば、お互いのやり方で揉めたものである。


(朝の食事のお粥やゴマ塩を準備しながら)

私:「A、いつまでゴマ擦ってんの!日が暮れるよ!」

A:「あなたのゴマ塩は荒すぎですよ!昨日のゴマは何?

  全然擦れてなくて歯に挟まるし、消化にも悪い!」

私:「はいはい、出来は8割くらいでもいいから、頼むからまず終わらせてよ!」

A:「自分で八割出来てるつもりなの!冗談でしょ!」。。。さらに続く

といった様な具合。


ただ、揉めるといっても、お互いに争いは嫌いであるし、

相手の考え方も一理あると、否定しきれぬ事もあってか、

なるべくお互いの修行方法には口を出さず、

良き同期として関係が結べたと私は思っている。


彼は、日本史の教科書に載る様な、有名な武士の家系を祀る大寺院の跡取りであり、

物腰は穏やかだが、

責任感が強く、努力家で、自身で積み上げてきた事に誇りを持つ気高い人であった。



その修行していたお寺を、Aも私も無事に退き、

8年という月日が経った頃、

寺を受け継いだAが、愛車のバイクに乗って海に飛び込み、

自らの命を絶ったという連絡が入った。


一報を受けた時は、

物凄く驚いたのだけれど、

「ああ、Aはそういう生き方を選んだのか。」

と悲しみもありながら、受け入れる様に努めたものだが、

時が経ち、今年が7回忌であるためか、Aを夢に見た。


なぜか、二人で大きな味噌汁の鍋をかき混ぜながら、

入れる具や味付けについて口喧嘩をしていた。


口喧嘩の末、Aは私に花を持たせてくれて、

私の思う様に作らせてくれたのだが、

なんの具を入れ、どんな味付けにしたのかは思い出せない。


目が覚めて、何だかすごく寂しい気持ちになったのだが、

「AはAの命を全うした、私も私の命を全うしよう」

と奮い立たせ、私は今日も生きている。

 
 
 

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