ここ数日でめっきり冷え込み、
「暖冬じゃないのかい!」と一人寒空に叫ぶ僧侶、雄道です、こんにちは。
仏教はインドで生まれ、中国に伝わり、日本へ渡ってきました。
ですから仏様の教えとされるお経も、昔のインドの言葉(サンスクリット語)、中国語、日本語のお経が日本では多く流通しております。
日本人である私としては、日本語のお経が読みやすいですし、
中国語は、漢字の羅列ですので、日本語で読みがなが付いていれば、
そこまで読みづらくはありません。
問題は、昔のインドの言葉であるサンスクリット語の音を、
そのまま漢字に当てはめた、下の様なお経です。
「陀羅尼(ダラニ)」と呼ばれ、
上記は、「大悲心陀羅尼(ダイヒシンダラニ)」と申します。
どうでしょう?読みづらくないですか?
それでも、様々な場面で我々僧侶が日ごろお唱えするメジャーなお経です。
さて以前、他のお寺さんへ夏の棚経のお手伝いに伺い、檀家さんのお宅に伺った時の事。
そのおうちでは、
90を超えたお婆さん、
孫である女性、
2名で温かく迎えて下さり、
私は、お仏壇の前で『大悲心陀羅尼』を唱え始めました。
速くもなく、遅くもなく、我ながら実に順調に、読みすすめていたのです。
でもちょうど、写真の経本14ページ三行目に差し掛かった時、
突然なんの前触れもなく、
後ろで座られていたお婆さんが「はいっ!」と大声を発したのです。
そのいきなりの声の迫力に、心臓が飛び出るかとも思いながらも、
辛うじてその衝撃に耐え、お経を読み続ける私。
そこへまたすぐ、「はいっ!」とお婆さんの大声。
それでも何とか読み続ける私。
そこからは、もうひたすら何度も何度も
「はいっ!」「はいっ!」「はいっ!」と連呼するお婆さん。
何が起きているのかさっぱり分からぬものの、
何とかテンポを保ち、私はお経を読み終えました。
終わるとすぐにお孫さんが、
「おばあちゃんどうしたの?何かあったの?」と聞きますと、
お婆さんが、「何が?」と不思議そうにお孫さんをみます。
孫 「何度もお経中に、はいっ!はいっ!って・・」
お婆さん「だって私をずっと呼んでるんだもん。返事したのよ。」
季節は夏、怪談シーズンのお盆。
仏壇では、十年以上も前にお別れした遺影のお爺さんがこちらを見つめておられます。
心霊現象的な何か?
私がそんな事を思っていると、
同じように感じたごでしょう。
孫 「怖いこと言わないでよ!誰が呼んでたの?お爺ちゃん?」
お婆さん「いやお父さんじゃない。」
孫 「じゃあ誰よ。」
お婆さん「お坊さん。」
孫・私 「へっ?」
お婆さん「何度もトモコ、トモコって。」
始めは面食らったものの、
しばらくお話を伺い、ようやく合点がいきました。
上記にもありますが、
この『大悲心陀羅尼』というお経の終盤、
「ソモコ」というワードが、大量に出てきます。
お婆さんは、「ソモコ」と自身の名前「トモコ」を聞き違えたのです。
お経中のお婆さんの様子が、あまりにも不可解でしたので、
その理由が分かり、緊張の糸が解けて、ホッとしたと同時に、
不思議な体験として私の中で今でも記憶されております。
どうもトモコお婆さんは、認知症の症状が進んでおられて、
介護施設の方に、「トモコさん」と呼ばれると、大きな声でご返事するのが習慣化していたとの事。
お経中に自身の名を呼ぶものだから、
トモコお婆さんの方も、懸命に答えて下さったのでしょう。
今でもこのお経の「ソモコ」の部分に差し掛かると思い出します。
因みにですが、
「ソモコ」は「幸あれ」といった意味だそうです。
今年もあとわずかではありますが、
皆さんの幸多からんこと、お祈りいたしております。
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